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今月中旬、東京都の西のほうに工房をオープンします。


工房の外観です。

最近、工房探しにと走っていたのですが、
都内で金属をやれる場所というのは探すのが難かったです。
私の場合、探す条件として、音が出せること、
土間がうってあること、一階であること、
扉がシャッターであることでした。


まず、第一にチェックしたのは音です。
叩くにしても削るにしても切るにしても音が出ます。
住宅街では難しいですね。

私の家の近くに準工業地帯というものがあります。
板金屋さんであったり、建築資材をそろえる場所であったり、
住宅街のなかに突然ぽつんと現れたりするのですが、
たいていは古くからその場所で営んでいた工場です。
ご近所さんの理解があってだったりするので、
いくら見つけた空き物件が
最近まで金属をやっていたと言っても、
新規参入では、簡単に理解を得られる
というわけではありません。
また、古くからやっている工場でも、
新たに建ったマンションとの折り合いで、
たたまざるを得ない場合もけっこうあります。
また、場所を貸すなら一戸建ての工場よりも、
何世帯にも貸し出せるマンションの方が、
というオーナーさんの考えもあります。
住宅が増えるにつれ、工場は、どんどん減っています。


まだからっぽ。


そして、火です。金属を扱うのに火の取り扱いは必須です。
ガスバーナー、コークス炉、酸素バーナーで炎を出したり、
また溶接や溶断するにも熱が出ます。
削るのにも火の粉が飛びますしね。
そこで、土間がうってあることが条件でした。
また、音が地面をつたって響くのを防ぐためにも、
土間が良いです。
知人の面白い話では、
大きな湖をはさんだ向こう岸の人のところまで
糸ノコの音が聞こえていたという...。
キュイーンという高音はシャットアウトできても、
糸ノコなどの低音の方が響いたりするみたいです。


シャッターを開けてみました。

そして、一階であること。金属、とても重いので。
材料の運びいれ、大きい品物の運び出しを考えて、
間口が広く、天井も高い、
出入り口がシャッターであることが条件でした。


ざっくりとそんな条件で、不動産屋さんに行ったり、
知人にあたったり、インターネットで探したりの日々。
目につく地域では、
埼玉の瑞穂、入間、朝霞、野火止、川口等。
東京では品川区、荒川区、大田区、
また神奈川は溝口、千葉では船橋や浦安市だったり。


コンクリートもホヤホヤです。

坪単価を見比べ、あとは実際に行ってみて、
駅が近いか、運送会社が近くにあるか、
ホームセンターが近くにあるか、
その町の空気が自分は好きかどうか。
私の場合は緑があるか、公園があるか、本屋があるか、
散歩できるか、居酒屋があるか(笑)、
スーパーが近くにあるか等、
オプションですがそのあたりも大事に探しました。
生きている時間のほとんどの時間をその場所で暮らすので。


そこで無事条件にあった場所を見つけることが出来、
更には新築という運の良さ。
また以前から取引のある材料屋さんが近いということ、
近隣にものつくりの同業さんがいることがまた心強く、
自分としては最高の場所です。



ケトバシです。田端の機械屋さんにて



箱が見つかったので、あとは中身、機械などの設備です!
私の場合、鉄、ステンレス、銅、アルミ、真鍮など、
使う素材や技法が幅広いので、
とりあえずは溶接機と切断機械と
穴あけ機械とコークス炉などの基本的な機械の他に、
単純に好きな機械を入れることにしました。
ケトバシと、バイブロシャーです。
現在の加工機械からすると大分シブい機械と言えます。

ケトバシは、フットプレスとも言います。
圧力は電気でも空気でも油でもなく、「人」なのです。
ケトバシ、蹴っ飛ばして、プレスをします。
鉄でできた重厚なかんじと形のかっこ良さと、
動力いらずのアナログのかんじが気に入って決めました。
クッキー型のような抜き型をつければ、
足で踏んだぶんだけ地金が抜けますし、
雄型と雌型をつければ、ある程度のプレス加工ができます。
中量生産に適しています。

今でも、サンプル作りやちょっとした加工に、
大きな工場にも1、2台残っていたりします。
ただ人力ですので人件費等の問題から、
すべて自動でできる電動の機械が今は主流です。
そこで出番をなくしたケトバシは、
わりと手に入れやすい機械といえます。
それでも昔は、ケトバシ一台あれば
家族みんなを養える、貴重な機械だったのです。


バイブロシャーで皿にしたステンレスのうつわ

バイブロシャーは、主に車の加工に使われます。
しかしこちらも今はあまり需要がなく、
現在はほとんど無価値と言われていますが、
私はこれが大好き。
ダダダダダっと上と下から追木(ついき)して、
たとえば直径10センチの浅めの皿ならステンレスの4ミリだって、
冷燗で、素手で持って、ものの10分で出来上がります。
ステンレスの4ミリなんて、熱を入れながらでなければ
どんなにハンマーで叩いても整形することなんてできません。
また、刃物をつければ、鉄の6ミリまで
自由曲線で切ることが出来ます。
ただこの機械、振動と音がものすごいです。
耳を守らないと、悪い耳がますますです。


しかしまだ入手できていません。中古機械は出会いなので、
運命の日までじっくり待つことにします。
機械屋さんに行っても、ついさっきまであったのに、
次はいつ入るかなあ、ということも珍しいことではありません。
逆に、タイミング良く出会えた時は、
君と私は出会うべくして出会ったのだね、
会えたことに感謝だねと心に思いながら、値切りにかかります。
私は値切るのが下手です。
たぶんスッゴイ欲しいと顔に書いてあるかのごとく
出ちゃっているのでしょう。


また、こちらは買う予定はありませんが、
フリクションという機械があります。
エアーハンマーなどの鍛造機は、真っ赤に熱しておいて
叩かないとはねかえりが強くて危険です。
フリクションは、ズドン、と押しつぶすような感触で、
冷たくても槌目をつけたり加工整形が可能です。

フリクションも、ちょっと前までは誰も使わない
価値のないものとして、鉄クズとなっていたそうですが
(今鉄の材料としての値段がとても高いので、
クズ屋さんに出して再利用してもらい、
キロいくらで地金代をもらいます)、
近頃、鉄でインテリアをつくったり、
芸術家が作品をつくるのにつかったりと、
需要が出てきて人気の機械です。
刀鍛治が刀の反りを直すのにも使われるそうです。



「油まみれで働いてきたぜ。」



などなど、時代の流れと共に
人気も移ろいゆく機械たちですが、
昔の機械はなんだかごりっと、
どしんと構える丈夫な鉄っぽいかんじで、
かたちを見ているだけでもなかなかかっこいいのです。
「オレ、油まみれで働くぜ」と言っているような雰囲気です。



出番も間近。

そんなこんなでハンドツールたちと機械たちを
ちくちく集めて、築城。
あとは、作業机や道具を整理する棚、キャスター、
ロフト、工房の看板などを作って、
ちょっとずつ環境を整えていきます。
おまけでバーをつくったりしちゃったり...。


その様子を何回かに分けて
リポートさせていただきたいと思っています。
よろしくお願いいたします。


studio MIRA (スタジオミラ) 太田彩子

業務内容 金属を主に用い、パブリックスペースのシンボル
となるような彫刻、装飾の提案、制作
MAIL ota@ayako-mira.com
URL http://www.ayako-mira.com
略歴
太田彩子(1981生)
2005 武蔵野美術大学造形学部
工芸工業デザイン学科 卒業
2007 東京藝術大学大学院修士課程鍛金専攻修了
studioMIRA設立


#21 2008.11.15 よみがえらせる人
#20 2008.10.15 久里浜の家
#19 2008.09.15 夏の宿題、自由研究
#18 2008.08.15 花、花、花
#17 2008.07.15 ギフト&トロフィー 展示会に向けて
#16 2008.06.15 築城〜途中編〜
#15 2008.05.15 フラワーデザイン
#14 2008.04.15 編む人
#13 2008.03.15 絵を、イメージを、実物とする2
#12 2008.02.15 アコースティックギター
#11 2008.01.15 卒業制作
#10 2007.12.15 金属の不思議
#09 2007.11.15 背中見せる人
#08 2007.10.15 背中見せる人
#07 2007.09.15 これからの人
#06 2007.08.15 南の太陽の下にいる人
#05 2007.07.15 金歯つくる人
#04 2007.06.15 現代手工業乃党
#03 2007.05.15 古い木造の建物のなかに、ピカピカのお仕事がありました
#02 2007.04.15 絵を、イメージを、実物とする
#01 2007.03.15 みんなのものつくり わたしのものつくり