ホーム > モノ作りの現場から > special source モリソン小林 #011


デザインのための一つの手段として機能を数値的に置き換えてデザインに結び付ける
人間工学からのアプローチがあります。
しかし現在の日本人の人体各部の計測値は
この半世紀において10〜30mm程度伸びていることを新たに留意しなければならないと思います。
また、この数値はすべてを解決するものではなくて
必要条件ではあるが絶対条件ではないことを考慮して作業を進めていく必要があります。
また今回は、店舗等のダイニングチェアのように、ある程度の客回転を必要とする椅子は敢えて含まないものとさせていただきます。

SH : 座面高
A' : 座面の傾斜(水平軸を基準)
A'' : 上体支持角度
B : 背もたれ点の高さ
B' : 背もたれ上端
B'' : 背もたれ下端
E : 肘の高さ



図1
プロトタイプI (A':0〜3°, A'': 約95°)
プロトタイプII (A':2〜5°, A'': 約100°)

a. 作業用椅子 − プロトタイプI
作業時において腰部を支持するように背もたれは曲面をもたせ、
背もたれ点を中心に上下方向の長さは短く、
下部の角度は90°近くになる。


b. 作業用椅子 − プロトタイプII
支持機能はプロトタイプ・と同じであるが、
背もたれ点より上部の曲面を大きくとって、
軽い休息性のある支持面になっている。


図2
プロトタイプIII

c. 軽作業用椅子 − プロトタイプIII
プロトタイプIIと比較すると背もたれの支持面が大きく、
上体支持角度も大きくなり休息性の機能が高くなる。




図3
プロトタイプIV

d. 軽休息用椅子 − プロトタイプIV
背もたれの支持機能の中心が腰部から胸部に移り、
休息の機能がはっきりしてくる。


図4
プロトタイプV

e. 休息用椅子 − プロトタイプV
背もたれは腰部から胸部まで広範囲な支持面をもつことで、より休息性が高くなる。



図5


図6


図7

椅子及び事務用椅子の各部の寸法
各部位の詳細は左のようになる。
これはプロトタイプI、IIを主に想定したもので、
図5は平面、図6はその側面になる。
またそれぞれの詳細を図7、8に表記している。

●(黒丸) : 背もたれ点
○(白丸) : 座位基準点

図8

※今回の椅子のモデュールについては、
僕が以前いた家具会社で社長の黒崎さんの強いこだわりもあって、
篠本さんや室くんといった人たちと、
朝倉書店の「家具の辞典」(垂見健三さん)を元に
自分達の体型に合わせて出した寸法です。
僕にとって大変貴重な時間や人たちを与えてくれた数年間でした。
この場をお借りして感謝いたします。



さて、最後に僕個人的な見解として、最近の椅子の多くは座面の角度を安易に0°に設定しがちだと思います。
確かにウレタンなどのクッションで安楽性は多少高まるとは思いますが、
たった1°でも格段に座り心地は向上すると思います。
もちろん思考を重ねてデザイン性を重視した妥協点で0°になるものもあるでしょう。
しかし欧米に比べて安易な0°の椅子が多いのも事実です。
これは製作の多くをアジア諸国に頼っているという実情によって
知らず知らずのうちに若い人の中でそういったモデュールが浸透してしまっていたということなのでしょうか。
僕は1ヶ月の間に何脚という北欧の椅子を見て座れる機会があるのですが、
彼等の椅子のほとんどがデザインもさることながら非常に安楽性に優れています。
元来椅子という生活に慣れていなかった日本人は
もうすっかり椅子ので生活が日常的に主流になっていると思うのです。
90°が出ているとそれだけ職人さんの手間は省けます。それは僕らとしても痛いほど分かります。
けれども「シンプル」という言葉を盾にしていませんか。1°くらい気持ちで作っていきましょう。
僕らの役割は
「デザインや技術、そしてコスト的な面だけに囚われずに椅子を製作していく」
ということだと思います。


モリソン小林 (1969生)
2001年スペシャルソース設立。
金属、木工、張り、ガラス、樹脂、古布、陶芸と頼まれて出来ませんと言うのが嫌で、身に付けられる技術はすべて会得したいと日々精進を重ねてます。 デザイナーや建築家との共同作業も、感性を高めるために重要な要素になっています。
「iA」にて連載中のマンガ「マーヤさんの日記」もよろしくです。


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